旅人に必要な5つの資質

旅のノウハウ・etc

 かれこれ日本を飛び出してから5年が経ちます。5年前に僕は日本でサラリーマンをしていましたが、辞めると同時にすぐにベトナムに飛びました。何か計画があったわけではありませんでしたし、前々から海外に興味があったわけでもありません。グーグルマップを眺めていて、ただなんなく目に入ったベトナムを選びました。完全なる無知で異国の地に自らを放り出したのです。今ではすっかり旅慣れてしまいましたが、当時は右も左も、それこそ泊まるところの探し方さえ分からない始末でした。今回はそんな旅ビギナーの時から自分に備わっていたと思う資質、そして長期で海外を渡り歩いてきた上で自分に身に着いていった資質に関して触れて行こうと思います。先に断っておきますが、これは僕の考える旅人に必要な資質であって、当てはまらないからと言ってそれが悪いとか良いとか人を評価するためのものではありません。

・好奇心

 まずはこれです「好奇心」。僕が最初から持っていたものの1つで、誰でも持っているものだと思います。しかしその強弱は人それぞれで、好奇心が弱い人はそもそも積極的に旅をしようとは思わないのでこれを読んでいることはないでしょう。ではその逆はどうでしょうか。実は、好奇心が強ければ強いほど良いのかと言われるとそういうわけではありません。どういうことか実際の僕の知り合いKさんを例に挙げて説明します。

 Kさんは僕の知る中でもっとも好奇心が強く、とても優秀な方です。Kさんとはインドの安宿で出会いました。Kさんは世界一周旅行中で、できることなら全ての国へ旅行したいと言っていました。沈没していた僕とは違い、やって来た次の日には別の町へと旅立ってしまいました。しかしある日、SNSで繋がっていた僕はKさんが世界一周を断念したことを知ります。聞いてみると、移動に次ぐ移動で疲労困憊、体調を崩してしまったのだそうです。「当分旅はいいかな」という言葉を聞いてなんだか悲しくなったのを覚えています。

 他にも、Tさんはアフリカを旅行中に銃を突きつけられて旅をリタイアしました。

「スラム街を見てみたくてさ。子供に身ぐるみはがされることになるなんて思いもしなかったよ」

とTさんは笑っていましたが、一歩間違えればそれっきりの状況でした。彼もとても好奇心旺盛で、どこにでも1人で突き進んでいってしまうような野生児です。それでもそれをきっかけに長期の旅には出ていません。

 僕の知る限り、何年も旅しているような長期旅行者はそこまで好奇心が強いタイプではありません。どちらかというとのんびり旅をしている人たちがほとんどです。つまり、人よりは強いけれど程々の好奇心を持っている人たちという印象です。

 つまり何が言いたいのかというと、好奇心は時として敵になり得るということです。好奇心の強い人に多いのがせっかちすぎる旅行計画です。これは持論ですが、僕は旅に計画は必要ないと思っています。特に綿密な計画は旅を台無しにする可能性を秘めています。1つ予定が狂うと、その先の予定まで狂いだしてぐちゃぐちゃになってしまうからです。旅はトラブルがつきものですから、ゆったりどっしり構えているべきなのです。

・諦念(ていねん)

 僕は人生を諦めて旅を始めました。その話はまた別の機会にするとして、決して前向きな気持ちで旅を始めたわけではないのです。しかしこれが結果として一番大きな長期で旅するための資質なのかなとも思います。日本で、日本的な教育を受けて育ってきた人ならば、何かを諦めていなければ旅をし続けることは無理だと思います。人生は大袈裟かもしれませんが、仕事や人間関係、目標や大切なモノ、しがらみや環境、何かを諦めてそれを良しとし続けることができるなら長期で海外を放浪することができるでしょう。

 人に旅人のイメージを聞くと2種類に分かれます。1つは、色々な場所へ冒険し、現地で友達を作り、それらの写真を撮りまくり、SNSがキラキラしているようなタイプ。もう1つはヒッピーみたいになって各国を這いずり回っているタイプ。どちらもバックパッカーにはよくいるタイプですが、言わずもがな前者は短期で後者が長期に多いタイプです。後者のようなタイプは必ず何か諦念を抱えていますが、それは決してネガティブなものばかりではありません。良い意味で諦念を抱えている人もいるのです。

 Sさんは50代のバックパッカーなのですが、今でも色んな国を自転車1台でマイペースに旅しています。色々な国のスパイスに興味があり、珍しいものを集めているんだと言っていました。彼は昔から家庭を持ちたいと思っていたのですが、旅を続けるために結婚は諦めたと言っていました。

「もう旅して10年以上経つよ。結婚は諦めたけど、今が楽しいからそれでいいんだ」

・寛容さ

 旅を続けて育った資質がこれですね。何に対してもこれはとても重要なことかなと思います。なんでも受け入れすぎも良くないですが、その器は大きいに越したことはありません。僕も最初はドミトリーにさえ抵抗がありましたが、今ではほとんどドミトリーにしか泊まりません。日本とは違って横柄な店員や、ふざけた態度の店員がいても今はなんとも思いません。旅をしていると色んな人や状況に出会いますが、いちいち本気で相手にしているとキリがありません。YouTubeを見ているぐらいの感覚でそれらを俯瞰できるようになれれば最強です。

 そしてこれは国の文化や他人の考え方についても同じことが言えます。異文化に対して、こちらは日本人なんだからと突っぱねていては上手く前には進みません。車が人より優先なら譲りましょう。お年寄りではなく子供に席を譲る文化なら譲りましょう。ご飯を少し残すのが礼儀なら残しましょう。お酒が禁止な国だって、大麻が合法の国だってあるんです。ただ拒否したり眉をひそめるのではなく、その理由について考えてみると面白い発見や気づきがあります。不寛容さは旅を狭くしていきます。寛容さを少しずつでも育てましょう。

・自戒のライン

 突然ですが、一番人から聞かれる質問第一位です。

「そんなに長いコト旅しているなら、何か危険な経験したことある?」

 大抵なぜかみんな目をキラキラさせて聞いてきますが、残念ながら答えは「NO」です。もちろんトラブルがなかったわけではありませんが、命に関わるような経験は今までで一度もありません。そこそこ危ない地域に足を踏み入れたこともありますが、 数年間旅を続けていて僕は自分を守り続けることに成功しています。言うまでもないことですが、一番大切なのは自分の命です。これがなければ旅なんてそもそも続けられません。

 ではどうやって自分の身を守り続ければいいのか。答えは簡単です、自分で自戒のラインを引くのです。人それぞれで違うとは思いますが、例えば僕の場合ですと、「夜は1人で出歩かない」、「外でモノをテーブルに置かない」、「パニックになったら収まるまで待つ」、「初めましての人を信用しない」などです。なんだよ普通のことをと思うかもしれません。しかし、それを自分の中でしっかりと体系化させておくことが重要なのです。「こういう状況になったらこうする」と予め決めておき、それはどんな状況でも徹底することが大切です。

 「頼れるのは自分だけ」、とか思っているなら甘いです。ピンチの状況や危険な状況では「自分」ですら裏切ってきます。何故か知らない人を信じてしまっていたり、何故か分かっていたはずなのに騙されていたり、何故かNOと言えなかったり、何故かYESと言ってしまっている「自分」に気をつけなくてはいけません。自分の弱点を見つめなおし、自戒のラインを引くことを強くオススメします。

 最後に

 仮に上記の資質を1つも持っていないという人がいたとしても、それを気にすることはありません。ましてや旅を諦めようとする必要なんてもっとありません。繰り返しになりますが、これはあくまで僕の考える旅人に必要な資質です。そしてこれらの資質は全て、後からでも手に入れることができます。さらにこれらは自分で育てることもできるのです。僕自身、寛容さや自戒などとは程遠い場所にいた人間でしたが、旅を続けるうちに身についたと思います。これから旅を考えている人や、続けていくか悩んでいる人の参考になれば幸いです。

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