早朝のポカラは冷えました。
バス停には数人の観光客らしき人たちと大勢のネパール人とインド人たちが寒そうにしていました。
僕は熱いチャイを飲み終えて席を立ち、早朝にしか見られないヒマラヤ山脈を見上げました。冷たくキリッとした空気によく似合う氷の壁は神秘的で、いくら眺めていても飽きが来ません。
しばらくすると雲がヒマラヤを隠してしまい、代わりにさっきまで控えめだった太陽が大きなバス停全体を照らし出し始めました。気温がググッと上がるのを感じます。
バスは40分遅れで発車しました。
車内はすし詰め状態で、大荷物を抱えた乗客が目立ちました。ニワトリが何匹も入ったカゴを持ち込んでいるおばさんがいて、僕はチラチラと視線を送りながらニワトリとおばさんを観察していました。たまにバタバタと羽ばたきましたが、それ以外は泣き喚いたりもせずに大人しくしていました。
バスは中も外もボロボロで、かなり年季を感じさせます。LCCのような席間隔で、これから10時間以上の旅になることを思い出して改めて覚悟を決めました。陸路での国境越えは心身共に削られることが珍しくありません。
窓際の席に座れた僕はかなりラッキーで、外の景色に飽きない限りは暇つぶしには困りません。そして実際、その景色は僕が想像した以上に素晴らしく、ニワトリと外の景色を交互に眺めていると全く飽きることはなかったです。
現地の人たちは入れ替わり立ち代わりバスを乗り降りしており、インド行きのバスは観光客よりもむしろ地元の人たちの足としての役割が大きいのだと知りました。
無駄に長かった休憩時間が終わり、バスが再出発するとピタリと地元の人たちの乗り降りが無くなりました。バスは本格的に山の中に突入したのです。
山道は今まで以上にぐねぐねと曲がりくねり、僕は噂の道が近いことを感じました。
先輩の旅人たちからたまに聞いていた話なのですが、ネパールインド間のバス移動は生きた心地がしないのだそうです。僕は窓側でしかも山側と反対の席に座っていました。山側と反対とはつまり、崖側の席です。崖側の道を割とスピードを出し、割と荒い運転で駆け抜けるので確かに不安にもなってきます。
山と崖に挟まれた舗装もそこそこな道路はとにかく揺れました。横にも縦にもガタガタ揺られて振られて走るそのバスは、乗り物酔いする人には絶対勧められません。その辺りの耐性が無敵の僕は、とにかく外の景色に釘付けでした。
切り立った崖からの景色はとても刺激的だったのです。絶景に次ぐ絶景で、命の危機やバスの荒い運転などはそこまで気になりませんでした。しかし、ふと下を見るとやはりガッツリ崖際で、バスの車体の数十センチ先は三途の川という感じでした。ガードしてくれるような仕切りもなく、運転手がちょっと手を滑らせたらもう終わりというような道です。僕はあまりそのことについては考えないようにして、景色を楽しむことにしていました。
ネパールとインドの国境に着いたのはお昼過ぎでした。僕はタバコを吸って休憩していたバスの運転手に、あんな道を走っていて事故になったりしないのかと尋ねてみました。彼は「never」と首を傾けて見せましたが、本当なら中々凄いことです。
カトマンズで事前に取っておいたビザを使い、手続きを済ましていきます。ほったて小屋のような施設に役人がたむろしており、ビザを提出したりパスポートを渡したりしました。
土ボコリにまみれたカオスな雰囲気の国境をテクテクと通り抜け、インドに到着です。ここからさらに5、6時間くらいかけてバスでバラナシに向かいます。
僕はネパールでのバスの様子を観察していたので、特等席をゲットすることに成功しました。運転席の斜め後ろ側の席、普通の車なら助手席がありますが、バス乗降者のためのドアがあるのでそのドアの後ろの席です。目の前を遮るものがなく、正面の景色が見渡せます。
僕はほくほくしながら、さっき見たような絶景を期待していました。しかし、その期待は裏切られ、延々と真っ直ぐのだだっ広い道を走るだけでした。
単調な道過ぎて、もしかしたらこの道路の方がさっきの山道よりも危ないんじゃないかと思いチラッと運転手の様子を伺いました。運転手は元気ハツラツと運転していたのでホッとしました。
僕は腹をくだすリスクを考えて朝からほとんど何も食べていませんでしたので、お腹が空きすぎてしんどかったのを覚えています。
ようやくバラナシについた頃にはもうあたりは真っ暗で、急いでカレーを食べてからゲストハウスに向かいました。
最後に
ネパールとインドの国境はちょくちょく閉鎖されることがあるので、タイミング的にも僕はラッキーでした。
事実、僕が通り抜けた数ヶ月後に政治的理由で国境が一時的に閉鎖になったと聞きました。
ネパールに関する記事もいくつかまとめているのでコチラの一覧をどうぞ。
インドに関する記事もいくつかまとめているのでコチラの一覧をどうぞ。
最後まで読んで頂きありがとうございました!